女性は不思議な生き物だと思う。
30歳を過ぎると、ひとりひとりがまるで違う生き物のように、それぞれの人生を歩んでいく生物なのだ。
独身を貫いてバリバリのキャリアウーマンとして活躍する女性、
結婚しても子どもは作らずに共働きでパートナーと人生を謳歌する女性、
子宝に恵まれ、子育てに追われながらも正社員やパートなどで仕事もこなす女性、
専業主婦として悠々自適な生活を送る女性、
嫁姑問題に苦しめられながら日々必死に生きる女性、、、
仕事、家庭、出産、育児、様々な要因が女性を変えていく。
人前に立つ職業で常に外見を意識している女性はいつまでも若々しく、家にこもりっきりの主婦たちは徐々に所帯じみていく。
だから、30を過ぎれば、もう見た目だけではその人の実年齢が分からなくなるのだ。
そして同じ女性であっても、その人の人生が変われば、雰囲気や見た目も変わる。
今、私はずっと仲良くしてきたママ友が最近どうも生き生きしている変化が気になって仕方ない。
上の子どもが同い年で、最初は新米ママとして情報を交換しながら、支え合って育児に奮闘してきた。お互いの家に遊びに行ったり、用事がある時に子どもを預かりあったり、私たちの年齢も近かったため話も合い、仲良くしてきた。
下の子どもも小学生になり、40代を目前に子育ても少し落ち着いてきた最近、私たちには少し時間の余裕が出てきた。
何か趣味を探すか、それか働こうかねぇ、などという話題がママ友間でしばしば上がるようになっていた。
そんな時だったのだ、彼女が少し変わったな、と感じたのは。
エステか何か行っているのか?何か新しい事にチャレンジしているのか?
一体彼女に何があったのだろう。
しかし私は、なんとなく彼女に直接聞くことをためらってしまった。
小さな事でも何でも話してくれる彼女があえて言わないならば、私もあえて聞かないというのが暗黙の了解であるような気がしたのだ。
そんなある日、子どもを習い事へ送っていった帰りにバッタリ彼女に会った。
他愛ない会話で盛り上がり、話題は趣味や仕事へと移った。
「私もパートかなんか探そうかなぁ。趣味って言われても今更何か始める気にもならないし・・・」
そう言うと、彼女が「実はね」と切り出した。
「まだ、ちゃんと資格取れてないから誰にも話してなくて、だから他の人には秘密にしといてもらいたいんだけど、私最近始めた事があって・・・」
聞けば、通信講座でアロマテラピーの講座を受講しているというのだ。
しかもその講座では講師の資格を簡単に取得する事ができて、その資格は自宅開業したり就職したりするのに役立つ「稼げる資格」だという。
彼女はもともとハーブやアロマなどに興味があって、また、時々「更年期かなぁ」などと冗談めかして心身の不調を匂わせていたので、リラックス効果が得られるアロマテラピー講座を受けようと思ったそうだ。
私は、彼女が最近生き生きしているように感じた理由が分かった。
「なるほどねぇ。それで最近なんか生き生きしてるっていうか、はつらつしてるっていうか、そんな感じになったのね。ちょっと雰囲気変わったって思ってたんだよ」
そう言うと彼女はちょっと驚いたように「え!?分かった?」と聞いてきた。
「分かる分かる。なんか変わったなぁとは思ってたんだけど、こっちから聞くのもなぁと思って・・・」
「やっぱりアロマのリラックス効果なのかなぁ」
彼女はそう言ったが、何かに打ち込んでいる人に見られる輝きのように感じたので、アロマの効果だけでなく、アロマテラピー講座を受けている事そのものが彼女に良い影響を与えているような気がした。
私は、最近の趣味や仕事の話題で、趣味にも仕事にも一歩が踏み出せない理由があった。
私の趣味はものづくりだが、基本的にひとりで取り組む事だから教室に通うとかサークルに参加するといったような類のものではなく、第一そういった教室もサークルも地元では見当たらなかった。
そして仕事をするにも、ただスーパーやコンビニのレジ打ちをするとか、工場ラインで単純作業をするという仕事には、どうにもやる気が出なかった。
もちろん働いて稼がないといけない状況に追い込まれればそんな我儘は言わずに働くのだが、幸いにも主人の稼ぎで十分一家がやっていけるだけの余裕があったので、無理して働く必要はなかった。必要もないのに気乗りしない仕事をする気にはなれず、重い腰がなかなか上がらなかった。
「アロマテラピーねぇ・・・」
アロマテラピーには、残念ながらそれほど興味は抱かなかった。
「私も何かそういうの、探してみようかなぁ」
そう呟くと、彼女が「だったらクラフトとかアクセサリー作りとかネイルアートとか、そっち系が良いかも!私がアロマテラピー講座受けてる通信講座、他にも沢山の講座があって、ものづくりとかメイクとかそういうのもあるの」と切り出した。
え!?ものづくりもあるの?と思い、私は色めき立った。
ぜひ詳しく聞きたい!と言うと、「今日はもう行かなきゃいけないから、今度お茶のみながら話させて!ひとまずURLだけ送るね」と言って彼女は慌ただしく「子どものお迎えに行かなきゃ!」と自転車のペダルを踏みこんだ。
しばらく経つと、彼女からメールが届き「これだよ~!見てみてね」というメッセージとともに通信講座のURLが送られてきた。
早速見てみると、色々な講座が充実していて、その中でもハンドメイド系の講座がとても多く、私はワクワクしてきた。
「ものづくり」が好きといっても、独学で個人的に細々と楽しんできただけで、自分の中では「ペーパークラフト」や「ビーズジュエリー」「ネイルアート」「トールペイント」など、分野や種類を指す一般的な言葉しか知らなかったが、講座一覧を見ると「デコパージュ」や「レジンクラフトデザイン」など聞きなれない言葉が並んでいた。
レジンは専門家が使うものというイメージがあったので、私のような素人は手を出さないものだと思っていた。正しい使い方も活用法もいまひとつよく分からず、かといってインターネットで調べたり本を買って勉強したり、まして誰かに教わるという発想には至らなかった。
興味はあったものの、独学では限界があるからと諦めていた事が、この講座なら学べる・・・?そう思うと私の心臓は高鳴った。
それぞれの講座の詳細を見てみたが、眺めているだけであれもこれもチャレンジしたくなり、興奮してきた。
どの講座も認定講師の資格が取れて、開業するのに役立つと謳っているので、こんな簡単に取れる資格で稼げるのかと思うと、興味のないパートに出るよりもずっと楽しく働けるに違いない。月にいくら稼がないといけない、という家系状況でないから、楽しみながらお小遣いが稼げれば良いくらいの気持で始められそうだ。
その日、私は学んでみたい講座をいくつかピックアップして、また彼女から色々話を聞こうと思い、期待を膨らませながら布団に潜った。
「色々見てみたんだけど、良いね、コレ!私も始めてみようかな」
彼女とお茶をしながら、早速私はこの講座の話題を出した。
「お、もう見たの?良いでしょ。ものづくりが趣味って言ってたからピッタリって思ったんだよね。で、どれをやるの?」
「まだ悩んでるんだよね。どれが楽しそうかな、とか、仕事にするならどれかな、とか色々考えると決められなくって・・・」
「いっぱいあるもんね」
そんな話で盛り上がり、私はふと彼女がどうやってこの講座を知ったのか聞いてみた。
「私が前働いてた職場の飲み会があって、そこで後輩に聞いたの。その子、まだ20代なんだけど多趣味な子で、うちの職場多少だったら副業OKだから、休日にネイルアーティストとして働いてるんだって。ただの趣味だったらしいんだけど依頼される事が多くなって、仕事にするなら資格がほしいって思うようになって色々探してたらこの講座を見つけたらしいのよ。
それで、私がちょっと自律神経の具合が良くないし、何か趣味か仕事か始めたいんだけどなかなか一歩が出なくてね、なんて話したら紹介してくれてね。アロマテラピーとか、どうです?って。それがきっかけ」
へぇ、彼女も私と同じく、一歩が出なかったのか、と思うと少し安心した。
「こうやって20代でも本業と合わせて上手く活用できてるケースもあるし、私たちみたいに40代のオバサンでも簡単に取れる資格だし、子どもがいない30代の専業主婦とかにも人気なんだって。女性たちにとってはすごく良いよね。女性が興味をもちそうなジャンルばかりだし、ホントおすすめだよ」
確かに、聞けば聞くほど納得する。
何か自分にしかできないクリエイティブな事でキラキラ輝ければ、女性にとってこんな嬉しい事はない。講座は全て女性が興味を抱きそうなものばかりで、「美しさ」と触れるものが基本だし、とても魅力を感じた。
「そうだよね、よし、私もやってみよう!」
こうして、私のチャレンジが始まった。
私が選んだ講座はレジンアクセサリー講座。
どうしても憧れのレジンを使った講座が気になり、レジンクラフトかレジンアクセサリーが迷ったものの、アクセサリー作りの方が実際に身に着けられるし、良いかな、と思って始める事にした。
通信講座に申し込むと、必要な材料が全て届いた。
レジンを扱うにあたり、そもそも何が必要なのか、どんなものを用意すべきなのか、まずそこから何も分からなかった私にとっては、一色揃った状態ですぐ始められるキットが届くのはとてもありがたかった。
そして公式テキストを開くと、丁寧に作り方が解説してあった。
はやく自己流にアレンジしたいとはやる気持ちを抑え、まずはとにかく指導の通りに作ってみる事にする。
レジンは、思っていたよりもずっと扱いやすく、専用のLEDライトですぐに固まるので手軽にアクセサリーを作る事ができた。
透明な液に閉じ込められたビーズや押し花が美しく、私は自分の作った作品を誰かに見せたくてそわそわしてしまった。
学校から帰ってきた娘が興味津々で覗き込んできたので、作り立てほやほやのレジンアクセサリーをプレゼントしたらとても喜んでくれた。
娘の笑顔を見て、がぜんやる気がでてきた私はあっという間に講座のプログラムを次々こなしていった。
何かに打ち込む事がこんなに楽しいなんて、すっかり忘れていた。
時間が経つのが早かった。今までボーっとテレビを眺めて過ごしていた時間がレジンアクセサリー作りに没頭する時間に変わった。
こんなに楽しんで資格を取ってしまって良いのだろうか、と思いながら、常に高いモチベーションでレジンアクセサリーの技能を身につけていった。
そんなある日、彼女から連絡が入った。
「資格ゲット!」
というメッセージとともに、アロマテラピーの資格を取得した彼女が証明書とともに笑顔で映っている写真が送られてきた。
これが私のやる気をますます刺激したのは言うまでもない。
私は彼女にお祝いのメッセージを返信し、気合いを入れ直した。
教材が届いてから2ヵ月半、私はついに資格取得に向けての課題作品作りとレポートに取り組み、ドキドキしながら出来上がったものを送った。
審査基準も細かく教えてもらえるので、その内容を確認しながら、取り組む事ができた。
そして結果は、合格。
資格取得なんて何年ぶりだろうかというぐらい久しぶりの事だったので、心から喜んだ。
主人も娘も喜んでくれて、お祝いにケーキを買ってきてくれた。
このレジンアクセサリーについては、講師として講座を開設して自宅開業する事もできるし、カルチャーセンターに講師として登録する事もできるし、自分で作ったレジンアクセサリーをハンドメイドアクセサリー販売サイトで売る事もできる。
材料費はそれほどかからないし、慣れてしまえば手間もかからないので、そんなに高値をつけなくても販売できる。市販のものよりも「1点もの」というポイントを強調して売る事もできるし、オーダーメイドも受け付けられる。
夢は広がるばかりだ。
アロマテラピーで資格を取った彼女は、今ハーブグッズを扱う大手化粧品店の販売員としてパートタイムで働いている。面接の時にこの資格が非常に役立ったと喜んでいた。
自宅で趣味を生かして稼ぐ事もできるし、彼女のように外へ出て働くのにも資格を役立てられる。女性たちがやりがいを感じながら輝ける人生を送るために、これらの講座は本当におすすめしたいと思いながら、私たちはひと足早く第二の人生を満喫しはじめた。