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販売員の仕事は、決して嫌いではなかった。
人と話すのは好きだし、お客様の事を本気で考えてしまうクセがある私は、リピーターさんたちにも信頼してもらって、お客様からのウケは非常に良かった。
ただ、それがアダになって、お客様の話をよく聞いたうえで、うちの店で扱っていない商品の方が良いと判断すると、ついそれを教えてしまい、そんな噂をどこから聞きつけたのか、上司の耳に入ると叱られることもしばしばだった。
それでも売上げにはかなり貢献していたらしく、店側からも必要とされているという自覚があった。
小言を言う上司は少しけむたかったが、同僚たちとは仲が良く、居心地の良い職場環境だった。
しかし、働く上で最も重要視される給料は、すこぶる悪かった。
立場としては立派な正社員だったのだが、もらえる給料はアルバイトのそれと大差ないくらいだった。
福利厚生もそれほど充実しておらず、辛うじて厚生年金と、会社が発行する健康保険証の恩恵にあやかれるぐらいだった。ボーナスもほとんど貰えず、販売業のため土日は休む事ができず、平日の中からランダムに会社が適当に決めた日で休んだ。
月末にならないと翌月のシフトスケジュールが出ないので、私は友人たちと遊びに行く予定も立てられず、そういうところはあまり良くないんだよな、などと思っていた。
また、私には決定的な欠点があり、それが「今の仕事、自分には向いていないかもしれない…」と思わせていた。それは、すこぶる事務処理が苦手、という欠点だった。
要するに、レジ打ちや、在庫の管理など、接客以外の仕事がとんでもなく苦手だったのだ。
特に数字に弱く、ケアレスミスが目立った。
気をつけていても、忙しかったりするとすぐにミスを連発してしまう。今の店での販売員の仕事としては、そういった事務処理的な業務もすべてこなしてはじめて一人前とみなされる。
私は、だからいつまで経っても給料も上がらないし、ボーナスもまともにもらえないんだ、と思っていた。
実際、接客面でお客様に愛され、リピーターさんを獲得するという点以外では、それほど会社に貢献できていないんだろうな、とも思っていた。
接客ならば、誰にも負けない自信はあったし、例え自社製品でないものを勧めてしまったとしても、だからこそ「伊藤さんは本当に良いものを勧めてくれる」と評判になって、それが信頼に繋がったと自負している。
それでも、そんなのは、販売員に求められる様々なスキルの1つに過ぎず、総合的には、やはりあまりこの仕事に向いていないような気がしていた。
気がつくと、いつのまにか上司に小言を言われるたびに「転職」という言葉が頭をちらつくようになっていた。
何か、この「接客」だけに特化したような、そんな仕事は無いかな、と思いながら、忙しい日々に呑まれて特に転職活動らしい転職活動はできないまま時間だけが過ぎていってしまった。
そんなある日、私はとうとう決定的なミスをやらかしてしまった。
発注の桁を誤ってしまったのだ。
稀に誤発注して大量に届いた商品を激安で売りさばく様がSNSなどにアップされて話題になるが、それは第三者が見るから面白いのであって、誤発注してしまった本人のダメージは半端なものではない。
これを気にしないでいられるほど、私は図太くもなかったし、楽観的でもなかった。
上司にこっぴどく叱られ、私は「やっぱり転職しよう」と静かに心に決めた。
一応断っておくが、この一件がきっかけになっただけで、この一件のためだけに転職を決意したわけではない。前から薄々「自分には向いていない」とか「精神的にミスをするのがしんどい」など思い続けて、その中での発注ミスだったために、私は転職の決意を固めたのだ。
とはいえ、忙しいのは変わらなかったので、ひとまず深夜帯にインターネットの転職サイトに登録して、ネットサーフィンしながら職探しを始めた。
「接客」で検索すると、ものすごい数の仕事がヒットした。
やはり、業界としては、人手不足なんだな、と実感しながら求人情報に目を通していくものの、ほとんどが飲食店の店員募集で、それはつまるところ、自分が今働いている販売員の仕事と変わらないか、もしくはもっと大変な業務に違いなかった。
レジ打ち、注文取り、発注など、そういったところまで全てこなせないとならない仕事ばかりで、私は途中で求人情報を見るのをやめてしまった。
「販売」で検索しても、結果は変わらなかった。
こちらは、しかし、「接客」とは異なり、マーケティングのデスクワーク部門などの仕事も見つかったが、そんなものは未経験の自分にはとても応募できないと思ったし、やはり数字などを扱わなければならないという面で「無理だなぁ」と思った。
ここで早速行き詰ってしまった私は、これから先どうしたら良いのか分からなくなってしまった。
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相談できる身内や知人が近くにおらず、自分だけではどうしようもない。
そこで私は、眺めていた転職サイトの中で見つけた転職エージェントサービスを利用してみようと思いたった。利用料は無料との事で、気軽に登録できた。
登録するにあたり、アンケートのようなものを入力する。
氏名や年齢、性別、配偶者の有無、そして今までの学歴や職歴、資格、特技、趣味、などまるで履歴書そのものだった。それから、希望する職種、興味のある業種、勤務形態、雇用形態、その他要望など、探している仕事についての要望を入力する項目もあった。
私は、なんとなく漠然としたビジョンしかもっていなかったが、とりあえず入力必須事項だけは埋めて、登録した。
登録したのは深夜だったが、翌日の午前中にはさっそく電話がかかってきた。
仕事中だった私は、休憩時間に着信履歴と留守番電話が残っているのに気付き、休憩時間中にこそこそとかけなおした。
電話口に出たのは、ハキハキと明快に喋る若そうな女性の声で、軽く挨拶を交わしてから、早速面談の日取りを決めましょう、という事になった。
展開が早いな、と思いながらも、流れに乗るように日取りを決めて、3日後の休日に面談の約束をした。
「はじめまして」
対応してくれた女性は電話口の女性と同じだと言って、自己紹介をはじめた。
「伊藤さんの担当をさせていただく事になりました、小林と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
流れるような所作で名刺を差し出され、私は若干挙動不審になりながら、それを受け取った。
「さて、では早速始めましょう」
挨拶の時よりも僅かに快活な調子で、小林さんの面談が始まった。
「伊藤さんは接客や販売に興味があるという事でしたが、土日休みを希望されているんですね。本社の方に総合職か何かで勤務して接客業、販売業に携わりたいというイメージでしょうか」
そう言われても、何も答えられなかった。
接客や販売は、今自分が販売員をしているからというだけで、他には何の資格も実務経験もないから、それしか選べなかったと恥ずかしそうにそう告げた。
「なるほど~」
小林さんは、そう相槌をうつと「では、特に絶対その業種ってこだわりがあるわけではないんですね」と促した。
「はあ・・・」という間の抜けた返事しかできない僕に、なおもハキハキと「どちらかというと、土日休みだったり、そちらの就労条件の方を重視したいですか?」と聞いた。
「いや、それもあくまで希望であって、私は、本当はどんな仕事が向いているんだろうと悩んでいるところなんです。それで、何も思い浮かばずに、とりあえず登録するとき必須事項だったところには単純な希望というか、願望だけ選んでって感じで・・・だから、どちらかというと、あまり重要ではない、かもしれないです」
歯切れの悪い私の言葉に、小林さんはほんの少し「ふむ」と考えて「なんとなく分かったような気がします。天職を見つけたいという印象かな、本当にのびのび働けるような職場とか、自分らしくいられる職場とか、そういう居場所を見つけたい、といったところですかね」と誘導した。
「そうです、まさにそんな感じ」
私の気持ちを代弁してくれたような小林さんに感謝した。
それからざっくばらんに会話しながら、どんな仕事が合うのか考えた。
小林さんは、なんというか、とても気さくな方で、私は気軽な気持ちで自分の性格や得意不得意分野について、割と饒舌に語った。
接客そのものはとても好きだし、お客様からも信頼を得て可愛がってもらっていたこと、お客様の事を思って、お客様の身になって一生懸命考えて、何ができるか案内するのが生きがいのようだったことを熱っぽく語った。
反面、事務処理作業がすこぶる苦手で、発注ミスをして落ち込んだこと、レジ打ちや発注作業が苦痛なこと、天職しようと思って色々見ていても結局のところ同じ業界だとそういった事務作業というか、接客以外の作業もほぼ必須業務となってしまうこと、という悩みも伝えた。
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ふんふん、と聞いていた小林さんは、私の話がひと段落つくと口を開いた。
「伊藤さん、もしかしたら営業職向きかもしれません」
営業?
不意打ちの提案にきょとんとなってしまった。
「営業・・・ですか?」
そう聞き返すと小林さんはこう続けた。
「ええ、なんかお話聞いてたら営業職、向いているんじゃないかな、と思いまして。
営業職ってどんなイメージ持たれているか分かりませんが、企業によっては本当に『売り込み専門!』というスタイルをとっているところが結構あるんですよ。
つまり、契約とれたら営業事務の人に丸投げするというスタイルですね。
伊藤さんが苦手な数字の処理だったり、事務処理的なものは、その営業事務の方が全てやってくれるんです。伊藤さんは、ただ『契約とったからよろしく』と言って営業事務の方に任せればOKなんです。
そして営業職は、とにかくいかに相手の信頼を勝ち得るか、相手の懐に飛び込んで可愛がってもらえるか、というところがポイントになるので、伊藤さんの『ウリ』になるのでは、と思いまして・・・」
目からウロコだった。
営業職なんて単語は全く頭に無かったので、突然新しい世界が開けたような気がした。
「でも、私、営業の経験なんてありませんが・・・」
ふとよぎった不安を伝えると「営業職は、割と未経験の人材も中途採用で取ってくれる企業が多いので、ちょっと探すだけ探してみましょうか」と頼もしい笑顔で言ってくれた。
それから小林さんはより細かく私の希望する条件などをヒアリングして、手元のパソコンで応募できそうな求人を探してくれた。未経験で中途採用というだけでかなり搾られてしまったようだが、それでも私の前には20社以上の会社情報が並べられた。
「中途採用は1人の枠に何十人の応募があるのがザラなので、『数打ちゃ当たる』作戦で、沢山応募してみましょう。そして、落とされてもまったく気にしないのが上手くいくコツです」
そんな小林さんの力強い言葉に背中を押され、私の転職活動が本格的にスタートした。
私はとことん、本当に営業したい、本当にお客様に心から自信をもっておすすめしたいと思える商品やサービスの営業にこだわった。
なぜなら、お客様のことを思いすぎて、ニーズに合わないと判断すると違うものを勧めてしまう事もあるという自覚があったからだ。
嘘をついたり、誇張したり、何か都合の悪い事は隠してまで営業する気にはなれなかった。
だから「取ってくれればどこでも良い」という妥協は一切せず、小林さんと共に、長い時間をかけて納得いく職場を探し続けた。もちろん「ここは!」と思った企業から落とされる事も多々あった。
しかしその度に小林さんは「気にしない、気にしない、次いきましょう」と明るく励ましてくれた。
この励ましと寄り添いが無かったら、私は途中で心が折れていたかもしれない。
そして、転職活動を始めて半年後、とうとう私は自分が心から働きたいと思える職場と巡り合う事になる。
営業職で私を採用したいと、その会社の社長が直々にそう言ってくれて、晴れて採用となった。
私自身もまた、その会社の企業理念や、扱っている商材に魅力を感じ、ここのものならば胸を張ってお客様たちにお勧めできると確信した。
今、私は転職先の職場でのびのびと、生き生きと働いている。
まさに天職と呼べる営業の仕事は、自分の得意な事をフルに生かして、苦手だった事務処理などは、小林さんが言っていたように営業事務の若い女の子に任せる事ができて、そういった点でのストレスも無くなった。
お客様の事を第一に考えるというスタンスは変わらず、信念として貫いた。
中には勿論、自社の商材を勧められないというケースもあり、そういう時には正直にその話をした。そこで、逆に信頼を勝ち得て、別の分野での依頼につながった事もあった。
そんな私の長所を、会社はきちんと評価してくれて、上司からもお褒めの言葉をいただくようになった。
この職場で働けて本当に良かったと思っている。
お世話になった小林さんには感謝してもしきれない。
私は、こうして自分が思いもしなかった天職を見つけ、楽しい毎日を過ごしているのだ。
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